最近、よく「肩甲骨はがし」や「肩甲骨リセット」などという肩甲骨に関するワードを耳にするようになりました。肩甲骨が硬いと「だるい」「疲れが取れない」「首や肩・腰などが痛い」などの体のさまざまな不調につながります。では、なぜ肩甲骨が硬くなってしまうのでしょう。
今回は、その理由や原因について解説いたします。
肩甲骨の特徴
肩甲骨は背中の左右に羽のように付いている大きな骨で、自由に動かせるのが特徴です。腕や肩を中心とした上半身のさまざまな動作に使われています。たとえば、肩を上げる、下げる、腕を上げる、下げる、胸を張る、腕を回す、振るetc.
肩甲骨がよく動けば、そうした動作の一つ一つがスムーズかつ大きくなり、動きが悪くなれば、さまざまな動作が制限されるようになります。
肩甲骨の動きを意識しているアスリート、たとえば、野球のピッチャーやゴルファー、水泳やボルダリングの選手などは、肩甲骨の柔軟性や動きがパフォーマンスに直結するので、自然と肩甲骨や周りの筋肉がとてもやわらかく、肩甲骨の動きもとてもスムーズです。
肩甲骨が硬くなる原因
そもそも、肩甲骨や肩甲骨周りの筋肉が硬くなってしまう原因には「使いすぎ」や「使わなさすぎ」というのが考えられます。
まず、使いすぎというのは、筋肉に力が持続的に入り緊張しすぎている状態のことです。私たちは気づかないうちに、筋肉に力が入りすぎているものです。
たとえば、デスクワークなどで長時間パソコンに向かい合っていると、肩周りの筋肉が緊張しすぎてしまい、首から肩にかけての僧帽筋という筋肉が硬くなってしまいます。このような状態が長時間続くとますます肩甲骨や周りの筋肉は硬くなってしまいます。
もう一つの使わなさすぎというのは、本来の筋肉の機能である収縮と弛緩が長い期間行われていない状態です。
現代人の生活では、特にスマートフォンなどの操作では、下を向いたままで、動かしているのは手先、指先だけで肩甲骨を動かすことはほとんどありません。これは肩甲骨周りの筋肉の運動不足ということになります。
人間の体はよくできていて、ずっと動かさないでいると、この機能は必要ないものと判断してどんどん運動機能が衰えていきます。そうすると、血流やリンパの流れなども悪くなってしまうため、筋肉の動きが悪くなり、硬くなる原因にもなります。
肩甲骨が硬いとさまざまな不調が引き起こされる
〇呼吸が浅くなる
肩甲骨が硬くなると、まず呼吸が浅くなります。なぜなら、背中が丸くなって前かがみの姿勢になり、横隔膜の動きが制限されるようになるからです。
呼吸は横隔膜を上下させることで行うのが理想ですが、肩甲骨が硬くなると、横隔膜の動きが制限されます。同時に呼吸をするときに動かなければならない胸郭も、やはり制限されます。
呼吸が浅いからと言って日常生活ができなくなるほど息苦しくなるわけではありませんが、浅い呼吸は、私たちの体を徐々に蝕んでいくことにつながります。
〇肩こりや首こり、姿勢(猫背)がひどくなる
肩甲骨は鎖骨と筋肉で支えられているため、肩こりをはじめとした肩周辺の筋肉の不調の影響を受けやすい性質があります。
また猫背となり背中が丸まることで肩甲骨の動きも悪くなりやすい性質があります。猫背の状態では肩が上げにくくなるのもこれが原因となっています。
肩甲骨は複数の筋肉と繋がっている点にも注目です。筋肉の強張りが肩甲骨の動きを制限するのと同じく肩甲骨の動きが悪くなると、その周辺の筋肉が血行不良に陥ってしまいます
〇不定愁訴がつづく
肩甲骨が硬くなり、浅い呼吸になると、体がだるい、おもい、疲れが取れないといった不定愁訴が続くようになります。さらには、血圧が高い、血糖値が高い、お腹周りの脂肪が取れないのも、体が冷えるのも、ぐっすり眠れない、お腹の調子が悪いのも、すべて浅い呼吸から引き起こされている可能性があります。
呼吸が浅くなると、体中の細胞が酸欠状態になります。交感神経が刺激されて自律神経が乱れます。体をサビつかせる活性酸素が増えます。
このように体のあちこちに不調が表れてくるのは避けられません。もとをたどれば、このような不調の元凶はガチガチに硬くなっている肩甲骨なのです。
肩甲骨を柔らかくするメリット
肩甲骨周辺が柔らかくなることで得られるメリットは、体の健康やパフォーマンス向上に大きく影響します。以下では、その主な利点をご紹介します。
まず、肩甲骨が柔らかくなることで呼吸が深くなります。肩甲骨周辺が柔軟になると横隔膜や胸郭の動きがスムーズになり、酸素の取り込み量が増加します。これにより、体中の細胞に酸素が行き渡り、疲労回復や代謝の向上につながります。
また、肩こりや首こり、猫背の改善も期待できます。肩甲骨周辺の筋肉がほぐれると、血行が良くなり、筋肉の緊張が解消されます。さらに、姿勢が整うことで全身の筋肉のバランスが良くなり、動作がスムーズになります。
肩甲骨周辺が柔らかくなると、ストレスの軽減やリラックス効果も得られます。肩甲骨の動きが改善されることで副交感神経が優位になり、心身のリラックスが促進されます。
さらに、肩甲骨の柔軟性はスポーツや日常生活のパフォーマンス向上にも直結します。ゴルフや水泳、野球などのスポーツでは肩甲骨の可動域が広がることで動作が滑らかになり、運動効率が向上します。
最後に、肩甲骨が柔らかくなることで脂肪燃焼や代謝向上にも貢献します。肩甲骨周辺には「褐色脂肪細胞」が多く存在しており、肩甲骨を動かすことでこれらが活性化し、脂肪燃焼や基礎代謝の向上が期待できます。
このように、肩甲骨周辺の柔軟性を保つことは、健康や美容、生活の質の向上に非常に効果的です。
肩甲骨を柔らかくする習慣10選
肩甲骨が硬くなると、呼吸が浅くなり、不調やパフォーマンスの低下につながることが分かっています。肩甲骨を柔らかく保つことは、健康や日常生活の質を高めるだけでなく、疲労回復や運動効率の向上にも効果的です。以下では、肩甲骨を柔らかくするための具体的な習慣を10個ご紹介します。
1. 毎朝の肩甲骨ストレッチを習慣化する
起床後、体が硬くなりがちな朝の時間に、肩甲骨を動かすストレッチを取り入れましょう。両腕を頭の上に伸ばし、左右に体を倒したり、肩甲骨を意識しながらゆっくり回すことで、肩甲骨周辺の筋肉がほぐれます。
2. 肩甲骨回しを1日3回行う
肩甲骨回しは、デスクワークやスマートフォンの操作で固まりやすい筋肉をほぐすのに最適です。両肩を耳に近づけるように上げ、肩甲骨を意識しながら後ろに回す動作を5~10回繰り返しましょう。これを1日3回程度行うことで、肩甲骨周りの柔軟性が高まります。
3. 胸を開くストレッチを取り入れる
胸を開くことで、肩甲骨を自然に引き寄せることができます。両手を背中で組み、胸を大きく張る動作を10~20秒キープするだけで、肩甲骨周りの筋肉が緩み、姿勢改善にもつながります。
4. ヨガの猫のポーズを実践する
ヨガの「猫のポーズ」は、肩甲骨を動かしながら背骨の柔軟性も高めることができます。四つん這いの姿勢から、背中を丸めたり反らしたりする動作をゆっくりと繰り返し行いましょう。呼吸と連動させることで、リラックス効果も期待できます。
5. タオルを使った肩甲骨エクササイズ
タオルを肩幅より少し広めに持ち、頭の上でタオルを引っ張る動作を繰り返します。このエクササイズは肩甲骨を引き寄せ、僧帽筋や広背筋を効果的にほぐします。デスクワークの合間や休憩時間に手軽に取り入れられます。
6. 正しい姿勢を意識する
肩甲骨を柔らかく保つためには、普段の姿勢も重要です。猫背や巻き肩にならないよう、耳、肩、腰が一直線になる姿勢を心がけましょう。正しい姿勢は肩甲骨の可動域を広げ、筋肉の緊張を防ぎます。
7. 肩甲骨剥がしのセルフマッサージを行う
肩甲骨周辺の筋肉を手で押したり揉んだりするセルフマッサージを取り入れましょう。特に、肩甲骨の内側や僧帽筋、広背筋を押して刺激することで、筋肉の緊張が和らぎ、血流が改善されます。
8. 肩甲骨を動かす有酸素運動を取り入れる
ウォーキングや軽いジョギングの際に腕を大きく振ることで、肩甲骨周りの筋肉が自然に動きます。特に、背中を意識して歩くことで、肩甲骨の柔軟性が向上します。週3~4回、20~30分の運動を目安に行いましょう。
9. 入浴後のストレッチを習慣化する
体が温まった入浴後は筋肉が柔らかくなっているため、肩甲骨周辺をほぐすストレッチに最適な時間帯です。お湯で体を温めた後、肩甲骨を引き寄せたり、両腕を背中で組んで肩を開く動作を行うと効果的です。
10. 深呼吸を意識する
深呼吸は横隔膜を動かすことで肩甲骨周りの筋肉にも良い影響を与えます。ゆっくりと息を吸い、肩甲骨を引き寄せるイメージで胸を開き、吐きながら力を抜きましょう。これを1日数回行うことで、肩甲骨の動きがスムーズになります。
肩甲骨を柔らかくする習慣を日常に取り入れることで、肩こりや首こりの改善だけでなく、呼吸の深さや全身の血流も良くなり、不調の予防や改善に役立ちます。特に、デスクワークやスマートフォンの使用が増える現代では、意識的に肩甲骨を動かす習慣を持つことが健康維持の鍵です。簡単にできるストレッチやエクササイズを日々の生活に取り入れ、快適な体を目指しましょう。
まとめ
ガチガチに硬くなった肩甲骨がさまざまな体の不調につながると考えられたことは、今までなかったかもしれません。しかし、肩甲骨が硬くなると、呼吸が悪くなり、それによりさまざまな悪影響が体に現れ、体に不具合が起きる可能性があります。
症状が現れていなくても、肩甲骨をやわらかくすることは、仕事や勉強、とくにスポーツなど、さまざまな分野でのパフォーマンス向上につながります。
横隔膜を動かす呼吸ができるようになると、いつでも副交感神経のスイッチを入れることができるようになります。そうなれば、日々のイライラなどを静めることができ、ストレスに強く、病気にもなりにくいというメリットが得られます。
肩甲骨はガチガチより、運動やストレッチで動かしてゆるゆるの方が良いのです。
参考動画
*音声が出ますのでボリュームにご注意ください。