仕事や家事、運動などさまざまな活動で疲れを感じた時、みなさんはどのように過ごし、疲労回復を図りますか?睡眠をいつもより多くとったり、ただ家でダラダラと過ごしたりしていませんか?
実は疲労を感じている時に、体を動かさずただじっとしているよりも、軽めの運動をすることで、疲労回復を早めることができるのです。 また毎日少しずつ「軽い運動」をすることは、疲れを取るのに有効なだけでなく、疲れにくい身体をつくるのにも役立ちます。
今回は疲労回復と運動の関係について解説していきます。
疲労回復効果を高めるアクティブレスト(積極的休養)とは
休養には完全休養とアクティブレスト(積極的休養)があります。
完全休養とは運動を一切せずに体を休息させることで、激しいトレーニングや運動の後、ケガをして痛みがある場合には、まず完全休養が先決です。
これに対してアクティブレスト(積極的休養)は、軽い運動を取り入れることで疲労をとっていく方法です。疲れた体を回復させる目的なら、疲れているのに運動をすると余計に疲れてしまうのでは?と思い、完全休養のほうがいいと考えられがちですが、逆に体の隅々まで血流を促すアクティブレストのほうが早く回復するといわれています。
アクティブレスト(積極的休養)は、もともとスポーツ選手の疲労を抜くために用いられた方法です。たとえば、マラソン選手などはゴールした後、すぐに休むのではなく、ウォーキングや軽いジョグ、ストレッチやマッサージなどをして、翌日以降にできるだけ疲れを残さないようにアクティブレストをおこないます。
軽い運動で自律神経を整え、疲れをとる
筋肉が硬くなる原因は、二つです。「使いすぎ」と「使わなすぎ」が原因で筋肉は硬くなります。
肩甲骨の動きとしては、上下・左右・斜め上下の6つの動作があります。そして肩甲骨は、「腕を上げたところからさらに上げる」「腕を前に伸ばしたところからさらに伸ばす」など、ある程度大きく動かなければ働きません。
デスクワーク等で長時間、体を動かす機会が減ること、年齢とともに体の動き自体が小さくなってくることにより肩甲骨が働かず、筋肉が徐々に硬くなります。
また、先にお伝えしたとおり、肩甲骨は、股関節や膝関節のように大きな関節が 骨に支えられている部分があるのに対して、肩関節は骨と骨との接触面が小さく、肩甲骨は鎖骨で下に吊り下げられている状態になっています。そのため、常に腕の重みに耐えていますので、姿勢によっては肩甲骨周辺の筋肉に負担をかけ、使いすぎにより硬くなることも考えられます。
肩甲骨周辺の筋肉が硬いと太りやすくなる理由
肩甲骨周辺の筋肉が硬くなることで、太りやすくなる原因をいくつかあげていきます。
血流が悪くなる
私たちの体についている筋に気は、血液を送り出すポンプの役割を担っています。
しかし、運動不足等が原因で筋肉が硬くなることで筋肉が働かず、血流が悪くなります。
血行不良になると、内臓や細胞の動きが鈍り、代謝が低下します。さらに老廃物も溜まりやすくなるので、結果的に脂肪の蓄積を招いて太る原因になってしまいます。
可動域が狭くなる
肩甲骨周辺の筋肉が硬くなると可動域が狭くなります。
すると、肩や腕の可動域が狭まり、筋肉量の減少から脂肪がつきやすい状態になります。
また血流も悪化するので老廃物が溜まりやすくセルライトができる原因ともなります。
姿勢が悪い
現代では長時間のパソコンやスマートフォンの使用が増えたことにより座っている時間が増え、日常生活で体を動かす機会が極端に減りました。画面を覗き込むような姿勢で過ごしている時間が多いと、首、肩、背中などの筋肉がその姿勢のままこわばり硬くなります。
実は首や肩、背なかには、脂肪を燃料させる筋肉が多く存在しているので、その筋肉が硬くなり、働かなくなると代謝が下がり、太りやすくなります。
熱を生み出し脂肪燃焼させる「褐色脂肪細胞」
「疲れやすい」「疲れがとれない」「なんとなく調子が悪い」といった疲労や不調の原因の一つに、自律神経の乱れが考えられます。
そこで、疲労回復のため、自律神経を整えるのに「軽い運動」がおすすめです。軽い運動には、血行促進効果があります。血流を改善することで疲労物質の排出を促し、筋肉疲労を緩和するほか、セロトニンという脳内物質を生み出して自律神経のバランスを整え、疲労回復につながります。
ここで大切なのは、ハードな運動になり過ぎないように気をつけること、軽い運動で良質な血液を体の隅々にまで行き渡らせることです。
〇ジョギングよりウォーキング
運動能力を高めたり、筋力を向上させるためには、体にある程度の負荷をかけてトレーニングをしなければなりません。しかし、乱れた自律神経を整え、疲労回復が目的であれば、ハードな運動は必要ありません。
先に述べたように、筋力や持久力を高めたいのであれば、ジョギングは有効な方法ですが、自律神経を整えるには、ウォーキングのほうがより効果があります。それには呼吸が関係しています。
人間の呼吸は、速く走れば走るほど、速く浅くなります。速く浅い呼吸は、副交感神経のレベルを下げ、自律神経のバランスを乱し、血流を悪化させます。つまり、体の隅々まで酸素と栄養が行き渡らなくなります。
ですから、自律神経を整えることが目的であれば、ゆっくりと深い呼吸が行えるウォーキング程度の軽い運動が適していると言えます。自律神経を整えるためには、体が温まる程度の運動で十分です。大切なのは、血行を良くし、細胞の一つひとつに十分な酸素と栄養を送り込むことです。
アクティブレスト(積極的休養)の方法
アクティブレストには、軽い運動のほかにも、ストレッチやマッサージ、サウナや入浴、プールなどでの水中運動などさまざまな方法があります。
〇ストレッチ
体に疲労が溜まると、筋肉が張って痛みや違和感が生じたり、関節がうまく動かせなかったりといった症状が現れます。
ストレッチで筋肉をじっくりと伸ばすことで血行も良くなり、筋肉の張り解消や、関節の可動域を広げることができます。特に股関節周りや肩甲骨周り、ふくらはぎや太ももの裏の筋肉を伸ばすことが大切です。
股関節は体の中央部にある大切な関節で、体を動かす時は常に股関節の動きが主となっています。股関節周りの硬くなった筋肉をストレッチで柔らかくし、動きをスムーズにすると下半身への血流が促され、むくみや冷えの軽減につながると言われています。
ふくらはぎの筋肉は「第二の心臓」とよばれており、上肢から下肢に送られてきた血液や水分は、ふくらはぎの筋肉が伸びたり縮んだりすることで、ポンプの役割を果たし、上肢に送り返されます。
このポンプの力が弱くなると下肢に血液と水分が滞り、むくみやすくなったり、下半身がだるくなったりします。太ももの裏の筋肉は、ふくらはぎの筋肉とつながっているので、一緒に伸ばしておきましょう。
これらの筋肉はウォーキングや階段など日常生活で使ってはいるものの、伸ばすことをしておらず針金のようにかたい筋肉になっていることも少なくありません。バネのように伸び縮みする使いやすい筋肉に常にしておくことは疲れを取ることにもつながります。
ストレッチは、呼吸を止めずに体を伸ばしていき、気持ちいいと感じる部分でキープすることがポイントです。
〇サウナ&入浴
入浴の特徴には、浮力・水圧・温熱の三つがあり、それぞれに働きがあります。
浮力は、お風呂に入ると体が浮いて軽くなる現象で体感できるように、筋肉を弛緩させ、脳への刺激を減らすことにより、心と体をリラックスさせる効果があります。
水圧については、人が水中に潜ると、体は相当の水圧を受けます。この水圧により腹部が圧迫され、横隔膜が上に押し上げられて肺の活動が約9%減少します。それによって呼吸が頻繁になり、心臓の動きが活発化し血流を促す効果があります。
そして温熱は、体を温めることで血流を促進します。ぬるめ(38〜40℃)の場合、副交感神経が優位になるため血管が拡張して血流が促進され、リラックス状態に導きます。反対に熱め(41℃〜)の場合、直後の温まり感は強いですが、実際には交感神経が優位になるため血管が収縮し、血流が抑制され、適度な緊張により心と体を活性化します。
浮力と水圧はお風呂に入るだけでできるケアですが、温熱だけは、目的に合わせて温度コントロールが必要です。
トレーニングや運動による疲労を早くリカバリーしたいなら、食事で摂取した栄養を体中に行き渡らせ、また疲労物質などの代謝物を除去するための血流促進が大切ですので、ぬるめのお湯に15分ほど入って血流を促進させるのが良いでしょう。
入浴は疲労回復のための重要な役割を担っているため、プロのアスリートなどは入浴の効果に注目し、冷水浴や流水浴、温冷浴など、目的に合わせたメンテナンスを行っています。
温冷浴とは、お風呂で温まったら、冷たいシャワーをさっとかけて冷やし、またお風呂で温まる。これを2~3回繰り返すことで、体が自力で温めようとする力をよび起こすのです。水とお湯を体に交互に与えることで全身にある毛細血管が収縮・拡大し、血液の循環を促進させます。サウナと水風呂を交互に出入りすることも、同じ効果が期待できます。
また、水を体にかけることで、交感神経を刺激し、温かいお湯により、副交感神経を刺激することで自律神経のバランスを保ち、健康を増進させてくれるのでコンディショニング面においても効果的です。
〇プール
アクティブレストのツールとして、プールのように水に全身を浸ける方法も効果的です。
浮力によって筋肉の緊張が緩和されるだけでなく、水圧で全身の血行も促進されます。無理に泳ぐ必要はなく、軽く水中ウォーキングをするほか、ただ肩まで浸かっているだけでも効果が期待できます。
サラブレッドなどの競走馬も「プール調教」といって、レースやトレーニング後にプールに入ってアイシングをしたり、浮力効果で大きな体に負担をかけずに血流促進により、疲労回復をはかったり、コンディショニング中心として使われています。
〇通勤時やデスクワークの合間にもアクティブレスト
アクティブレストは、通勤中や仕事中にも実践できるものが多くあります。いつもより積極的に体を動かし、筋肉を使うことを意識して、同じ姿勢を長く続けて筋肉が凝り固まってしまう状態を防ぎましょう。
デスクワークに集中していると、長時間前傾姿勢となりがちです。背中や腰の広範囲の筋肉が緊張して、血の巡りも悪くなってしまいます。そこで、30分おきに椅子に座ったまま大きく伸びをしたり、立ち上がってトイレに行ったりするなど、少しでも体を動かす習慣をつけてみましょう。
まとめ
デスクワークばかりで普段あまり運動をしない方、人付き合いや社会的要因でストレスを抱えている方、長時間の運転や勉強で神経を尖らせてしまいがちな方にも、アクティブレストはおすすめです。
軽く体を動かしたほうが心身の疲れがほぐれやすくなります。
また毎日少しずつ「適度な運動」をすることは、疲れを取るのに有効なだけでなく、疲れにくい身体をつくるのにも役立ちます。