怪我をしにくい体と聞いて、皆さまはどんなことを思い浮かべるでしょうか? 強靭な肉体、柔軟な体など想像されると思います。もちろん重要なことだと思います。しかし、どれも一番に優先されることではありません。
では、もっとも優先するべきことが何かというと「正しい体の使い方を身につけること」です。そして関節や筋肉に無理な負担がかかっている時に怪我をしてしまいます。ですので、一箇所に負担をかけないように「体の連動性」を高めることも非常に大切なことです。
今回は、その体の使い方をご説明していきます。
股関節中心の体の使い方
日常生活動作である、歩く、走る、立つ、しゃがむ等のほとんどの動作は、すべて下半身の動作になります。そしてすべての動作が股関節中心の体の動きになります。
もう少しわかりやすくお伝えすると、すべての動作が「スクワット運動」になります。ですので股関節の正しい使い方を身につける上で、スクワット運動を行うと良いです。ただしスクワット運動を正しく行わないと逆効果になりますので、注意が必要になります。
〇股関節=お尻
股関節を英語で表記すると「Hip Joint」となります。股関節は正確には、尻関節ということになります。ですので、股関節を使うということは、お尻の筋肉を使うということになります。
そしてスクワット動作では、お尻の筋肉が使えるようなフォームを習得する必要があります。
正しいスクワット運動とは
では、正しいスクワットを行うにはどうすれば良いかというといくつかポイントがありますので、ご説明していきます。
〇膝が前にでないように行う
はじめに、なぜ膝が前にでてはいけないのかというと、重心の位置にズレが生じるからです。
人間の重心の位置は、立位での場合、「くるぶしの真下」です。膝下の脛骨と腓骨という骨の延長線上に位置します。「距骨下」とも言います。その位置が、一番力の入りやすいポイントになります。
想像していただきたいのですが、空き缶を踏み潰す時に足裏のどこで潰しますか? おそらく、くるぶしの真下だと思います。つま先や踵では力が入らずに空き缶を潰せないのは、何となくおわかりになるかと思います。
重心の位置がズレてしまうと、体を支えることができなくなり、余計な負担を体にかけることになってしまいます。また膝が前にでることで、膝関節に負担をかけ、膝を痛めてしまう原因にもなります。
〇膝が内側に入らないように行う
股関節の構造を考えると非常にわかりやすいのですが、股関節は、大腿骨の先端にあるボールの形をした大腿骨骨頭と骨盤側で骨頭の受け皿になる深いお椀の形をした臼蓋との組み合わせでできた、球関節です。
そのボールと受け皿のジョイント部分をよく見ると、骨盤の形状が斜めになっているかと思います。そのため、スクワット運動でしゃがむ際にしゃがみながら骨盤の斜めの形状に沿って、外側に開くのが、股関節の機能的な動作になります。これを「股関節の屈曲・外旋」と言います。
簡単に言うと、しゃがみながら膝を外に開くことを指します。膝が内側に入ると、股関節の機能的な動きと逆の動作になりますので、骨盤と大腿骨骨頭がぶつかることで股関節に無理な負担をかけることになります。
*音声が出ますのでボリュームにご注意ください。
連動性を高める
正しいスクワット運動を行い、股関節中心の動作でお尻の筋肉が使えるようになると、体中の筋肉がうまく連動し、体への負担が軽減します。
お尻は体の中心にある筋肉です。下半身の力を上半身につなげる、逆に上半身の力を下半身につなげる、力を全身に中継する役割を担っている筋肉です。お尻の筋肉が使えていなければ、うまくその力は連動しませんので、体の一箇所に大きな負担をかけることになり、怪我につながります。
できるだけ体の一箇所に負担をかけることなく、全身の関節や筋肉に満遍なく負荷が分散されるような股関節中心の体の使い方を身につけることで、怪我のしにくい体を獲得できるかと思います。
正しい動きがリハビリになる
われわれ運動指導の専門家としては体に痛みがある時の原因として、体の使い方に問題があると、第一に考えます。
そのため、関節や筋肉に痛みを抱えている方に対しての対処法として、動作改善を行います。体の痛みに関して、原因がはっきりとしているケースは極々少数です。
痛みの原因として「なぜ痛みが出たのかがわからない」ということが大半です。それは関節や筋肉に無理のある動き、言わば悪い癖が身につき、その動作が普通のことすぎて気づかないからです。そして無数にその動作を繰り返し行うことで痛みとして出現します。
悪い癖を改善させずに、その場しのぎで対処療法で治療を受けても、その時は楽になってもすぐにまた痛みが出現します。そうならないように痛みの原因である自分の悪い癖を知り、それを良い癖に変えることで根本的に改善した方が効果的です。
体に負担の少ない正しい動作をすることで、自然と痛みが軽減することが期待できます。
まとめ
怪我をしにくい体は、股関節を中心とした体の使い方を身につけていることになります。少し難しいことのように伝わってしまうかもしれませんが、決してそのようなことはなく、とてもシンプルです。
スクワット運動もすぐにできるようになると思います。ただし、スクワット運動での体の使い方が日常生活動作の中でできるようになるには、ある程度の期間と訓練が必要です。
癖というのはかなり根深く、すぐ元の悪い癖に戻ってしまいます。体を変えるためには普段の動作で股関節、お尻の筋肉を意識して生活するようにしましょう。
そして、一度良い癖が身についてしまえば、自転車の乗り方や泳ぎ方と同じで忘れることはありません。一度しっかり腰を据えて学んで身につけるだけの価値はあると思います。