機能的に立つというのは、「体の骨格構造に基づき、関節や筋肉の役割どおりに体を使い立つこと」を指します。立つためだけの必要最低限の力のみを使い、余計に力を入れて力むことがなくなるので、疲れにくく関節や筋肉のストレスも少なくすることが可能となります。
立つということが当たり前のこと過ぎて、普段あまり意識されることはないかと思います。ましてや自分の立ち方が間違っているなんて思いもしないのではないでしょうか。
今回は、人間の骨格構造に基づいた、疲れにくい機能的で正しい立ち方をお伝えしていきます。
正しく立つための関節と筋肉
全身の筋肉は大小約400個あります。また人間の体には200本を超える骨があり、関節の数は約260か所と言われています。
もちろん正しく立つためにすべての関節と筋肉を意識する必要はありません。関節や筋肉にはそれぞれ役割があります。大きく分けると「使う関節と筋肉」「使われる関節と筋肉」の二つに分類できます。
使う関節と筋肉、使われる関節と筋肉
地球にいる以上、重力がかかります。立位、座位、また寝ている時でさえわれわれの体には重力がかかっています。正しく立つためには、重力に耐えるために必要な関節と筋肉を使えるような体の使い方を身につけなければなりません。
地球の重力に対して姿勢を保つための筋肉を『抗重力筋』といいます。
抗重力筋は「お尻とお腹」の大きな筋肉を指します。そしてお尻とお腹の筋肉を働かせる関節は『股関節』になります。
使う関節と筋肉は、股関節・お尻とお腹の筋肉になります。そのほかの関節や筋肉は、使われる関節と筋肉になります。股関節・お尻とお腹の筋肉を使っていると、自然と働くと考えていただいて良いです。
正しく立つ方の重心の位置
では、立っている時に股関節・お尻とお腹の筋肉を使うには、どうすれば良いかというと、地についている足の裏のどこに重心がかかっているかが重要になります。それは「くるぶしの真下」になります。解剖学的には「距骨下」です。
距骨下に重心があると自然と股関節・お尻とお腹の筋肉が使えるようになります。ただし、使うと言っても、立位保持するだけの最低限の力を使うだけなので、使っている感覚は薄いかと思います。距骨下重心になると足の裏全体が地面に対して、ベタッと着き安定して立つことができます。
試しに、かかと側やつま先側に重心を傾けてみましょう。どちらにしても不安定でバランスが崩れてしまうと思います。そして太ももの前の筋肉や背中の筋肉などに余計な力が入り、疲れてしまいます。
立っている時に体に余計な負担をかけずに立つのが正しい立ち方なのです。
正しく立つための肩甲骨の位置
くるぶしの真下に重心をかけるというお話をしましたが、そのためには頭の位置も重要な要素となります。
頭の重さをご存じでしょうか?
体重の約10%と言われています。おおよそ 4~6㎏ ほどとなります。人間は、その重りが一番上に乗っているため、頭の場所によって重心の位置が変わってしまうのです。
では、頭の正しい位置はどこかというと、「くるぶしの真上」になります。頭からくるぶしまでは少し距離かあるため、わかりにくい場合は、背骨の上に乗った位置のほうがわかりやすいかと思います。
くるぶしと背骨は体の後ろ側に位置しています。そのため、目線をやや斜め上に傾けることで頭は正しい位置に収まります。顎の下に拳一個分の隙間がある状態が理想です。目線を徐々に上に傾けていくと首や肩の筋肉が緩むポイントがありますので、それを目安にしていただければよいと思います。
正しく立つための頭の位置
肩甲骨は肩を構成する骨の一つで、大きな骨で支えられておらず、筋肉のみで支えられている言わば「宙に浮いている骨」になります。正しく立つために肩甲骨の位置も非常に重要です。
よく、正しい姿勢を「気をつけの姿勢」だと勘違いされている方がいらっしゃいます。「気をつけの姿勢」は、胸を張り、肩甲骨を背骨に側に寄せて背筋を伸ばす姿勢になります。この場合、腕が体の外側にきて、手の平が太ももの外側に触れるかと思います。パッと見、美しく、格好よく見えますが、筋肉が余計に力むため、身体に負担がかかり、疲れやすくなってしまいます。
通常肩甲骨の位置は、体の真後ろに位置していません。
胸を張り肩甲骨を背骨側に寄せた位置にはありません。
正しい肩甲骨の位置は、肋骨の丸みに沿って、少し斜めに位置しています。
正確には、30°外側に傾いています。そのため、背中は本来少し丸みを帯びています。そのため正しい肩甲骨の位置は、少し外側に開いているのです。
正しい肩甲骨の位置の目安としては、鏡に向かって立った時に手の甲が鏡に映っているかで判断されると良いです。腕の本来の位置も体の真横ではなく、体よりも前にくるのです。
正しく立てていな人の特徴
日常生活の中で「立つ」という動作は当たり前すぎて、普段あまり意識されることはありません。しかし、間違った立ち方をしていると、体に余計な負担がかかり、疲れやすくなったり、関節や筋肉に慢性的なストレスを与える原因となります。ここでは、正しく立てていない人の特徴を挙げ、それが体にどのような影響を及ぼすのかを解説します。
1. 重心がかかと側またはつま先側に偏っている
正しい重心の位置は「くるぶしの真下(距骨下)」にありますが、かかと側やつま先側に重心が偏っている人が多く見られます。
- かかと側に重心がある場合
太ももの前側(大腿四頭筋)や腰、背中の筋肉に余計な力が入りやすく、腰痛や背中の張りを引き起こす可能性があります。バランスを取るために体が後ろに傾くことが多く、姿勢が不安定になります。 - つま先側に重心がある場合
ふくらはぎや足の指に過剰な負担がかかり、ふくらはぎの張りや足の疲労感が強くなります。また、前のめりになりやすいため、猫背や首の位置のズレを引き起こします。
2. 骨盤が前傾または後傾している
頭の正しい位置は「くるぶしの真上」にあるべきですが、多くの人が頭を前に突き出す姿勢をとっています。
- 影響
頭の重さは体重の約10%(4~6kg)と非常に重いため、頭が前に出ると首や肩に過剰な負担がかかります。その結果、肩こりや首の痛み、さらには頭痛を引き起こすことがあります。また、全体の重心が崩れるため、腰や膝にも負担がかかります。
3. 骨盤が前傾または後傾している
骨盤の正しい位置は、上半身と下半身を安定して支えるための重要なポイントですが、前傾や後傾している人は姿勢全体が崩れやすくなります。
- 前傾している場合
腰を反らせる姿勢(反り腰)になりやすく、腰椎への負担が増します。このような立ち方を続けると、腰痛や坐骨神経痛の原因となる可能性があります。 - 後傾している場合
骨盤が後ろに倒れると、背中が丸まり猫背になりやすくなります。また、腹筋や大殿筋(お尻の筋肉)が使われにくくなり、体幹が弱くなることで疲れやすくなります。
4. 肩甲骨が少し違うな位置にある
肩甲骨は肋骨の丸みに沿って30°外側に傾いているのが自然な位置ですが、多くの人が間違った位置で肩甲骨を固定しています。
- 肩甲骨を背骨側に寄せすぎている
胸を張りすぎて肩甲骨を背骨側に寄せてしまうと、肩や背中の筋肉が緊張しやすくなり、疲労感や痛みが生じやすくなります。 - 肩甲骨が外側に開きすぎている
猫背のように肩甲骨が外側に広がりすぎると、胸の筋肉(大胸筋)が短縮し、背中の筋肉が弱くなり、姿勢を維持する力が低下します。
5. 足のアーチが崩れている
足裏のアーチは体のバランスを保つ重要な役割を果たしていますが、偏平足やハイアーチ(アーチが高すぎる状態)の人は重心が不安定になりやすいです。
- 偏平足の場合
足全体が地面に沈み込み、足裏の筋肉(足底筋群)が十分に働かなくなります。その結果、足首や膝、股関節に余計な負担がかかります。 - ハイアーチの場合
足裏の接地面積が少なくなるため、バランスを取るのが難しくなり、ふくらはぎや足の指に負担が集中します。
6. 余計な筋肉を使いすぎているための疲労
正しく立つためには、最低限の力で骨格を支えることが理想ですが、多くの人が余計な筋肉を使っています。そのため慢性的な疲労感を感じて姿勢維持が難しくなっている可能性があります。
- 太ももの前側や背中、首の筋肉に力が入りすぎている場合、すぐに疲れてしまい、長時間の立位が難しくなります。
- 無意識に肩を上げたり、拳を握りしめていたりすると、全身に緊張が伝わり、リラックスできない状態になります。
まとめ
これまで説明してきたことは、実は赤ちゃんの頃は全員自然とできていたことなのです。なぜかというと、「いい意味で筋肉がないから」です。
筋肉がほとんどない子ども時代は、機能的に体を扱わなければ、立つことができないので自然と正しく立ってしまうのです。大人になると筋肉が発達するため、間違った姿勢でも立ててしまうのです。
そして多くの体に関する情報が入ってくるため、いろいろと試している内に何が正しいのかがわからなくなり、どんどん体の扱いに間違いが生じます。間違った立ち方でも大人はそれを支えるだけの筋力があり、立ててしまうので、自分の立ち方が間違っているとは思っていない方が多数いらっしゃいます。
プロアスリートを例にすると、彼らが体の使い方でもっとも重きを置くことは、「立ち方(セットアップ)」です。動作の前の立ち方が間違っていると、その後につながるすべての動作に間違いが生じるためです。
立つことは、基本中の基本です。その基本を少し蔑ろにしていませんか?
今回ご説明したことは、すべて簡単にすぐに試せることばかりです。普段、なにげなく立っている時に、ご自分の立ち方を見直してみましょう。