理想的な体づくりのために、筋トレが効果的だということは、常識化していますが、実際ジムに通ったり、マシンや器具を準備したりするのは、少し面倒に感じられる方も少なくないのではないでしょうか。
そこでおすすめなのが、スロートレーニングです。
今回はスロートレーニングについてメリットややり方のポイントを解説します。
スロートレーニングとは
スロートレーニングとは、その名のとおりゆっくりとした動作で行うトレーニング方法です。一つ一つの動作をていねいにゆっくりと行うことで、筋肉に効果的に刺激を与えることができます。
海外では「スーパースロー」と言われ、「負荷を4秒で下ろし、10秒で上げる」というのが基本になっています。
日本では「張力維持スロー法」として研究され、「何秒で」という基準はなく、「筋肉の出力をゆるめないようにトレーニング動作をする」ことがポイントになります。筋肉がゆるむ瞬間をつくらないために、結果的に「3~5秒程度かけて上げ下げする」動作が一般的です。
スロートレーニングは筋肉を肥大させて筋力を増強させる目的で行うレジスタンス運動(筋トレ)の一つの方法として分類されます。
動作中に力を抜くことなく、終始力を入れっぱなしで動作をするということです。わかりやすいイメージとしては、何もないところに椅子に座っている姿勢をとって維持する「空気椅子」というものがありますが、この空気椅子の状態を維持しながらトレーニング動作を繰り返す、ちょうど太極拳のような動作になります。
〇スロートレーニングのメリット
スロートレーニングの最大のメリットは、軽めの負荷で行えるということです。
重いダンベルやバーベルを用いる通常の筋トレに比べて、かなり気軽に取り組めるのに、それと同等の効果が得られるのが、スロートレーニングの大きなポイントになります。
- ジムに通ったり、専用のマシンや器具を準備しないとできない
- 高齢者の場合、振動や血管系に負担がかかる
- ケガのリスクや危険性がある
- トレーニングがツライので、長続きしない
- ジムに通わなくても、自宅など場所を選ばずにできる
- 専用のマシンや道具を使わずに自体重だけでもできる
- 血圧が高めの人でも安心して行える
- 筋肉や関節を痛めにくい
- 比較的ラクに行えるので、継続しやすい
〇ノンロックの動作で行う
スロートレーニングエクササイズは、肘や膝をなどの関節を伸ばしきって休まない “ノンロック”という動作と組み合わせることで、より効果的にトレーニングをすることができます。重要なのは筋肉の力を抜いて休まないことです。
スクワットの場合、膝を伸ばしきって関節をロックしてしまうと筋肉はゆるんで休んだ状態になります。そうならないために、膝が伸びきる手前で止め、再びしゃがみ込むようにします。
腕立て伏せなら腕を伸ばしきらずに再び腕を曲げるという動作の仕方です。他の部位のトレーニングも同様で、繰り返しになりますが、完全に立ち上がったり、膝を曲げきったりして、関節や体勢をロックさせない、つまり完全に脱力するフェーズをつくらないことがポイントです。
そうすることで、トレーニングの動作中に筋肉が休みなく一定以上の力を発揮し続けることになります。これこそが、自分の体重、もしくは軽い負荷にもかかわらず、通常の筋トレと同等の効果が得られる理由です。
ダイエットに効果的な理由
〇成長ホルモンの分泌が増える
スロートレーニングを行うと、筋肉中に代謝物である乳酸が発生します。
脳は大きな負荷をかけられたと勘違いし、溜まった乳酸を除去させるために「成長ホルモン」を分泌させます。成長ホルモンには、「筋肉つけて代謝を上げる」「体脂肪を、燃焼しやすい脂肪酸に分解する」といった働きや特徴があります。
ですから、乳酸をできるだけ多く発生させることができれば、それに比例して、成長ホルモンが分泌され、ダイエットにも効果的ということになります。
〇じっとしていても体脂肪が終えやすくなる
生命維持に必要な基礎代謝、体を動かすことで消費される運動エネルギー。それらに、食事によって発生する熱エネルギー付け加えたものが、人間が1日に使う総エネルギーになります。
なかでも基礎代謝は占める割合が多く、特に運動をしない日で、総消費エネルギー量の約65~70%が基礎代謝と言われています。
スロートレーニングを3ヶ月きちんと続けると、筋肉などの除脂肪体重が1~2kgほど増え、基礎代謝は50~100kcalくらい増えます。これは毎日20分~40分程度ウォーキングした場合に相当する体脂肪を燃焼してくれる計算になります。
ただし、妊娠・出産する女性にとって体脂肪は必要なものでもあります。月経が起こるには、体重に対して少なくとも15%程度、正常な周期でそれが行われるには20%程度の脂肪が必要であると言われています。マラソン選手などが体重を絞り込むと月経が止まることがあるのは、そのためです。
ですから、スロートレーニングは、脂肪はむやみに落とすのではなく、筋肉量を増やして、体が自然に余分な脂肪を減らす方向へと導く女性にとって理想的な体脂肪の落とし方といえるでしょう。
〇有酸素運動と組み合わせるとさらに効果アップ
よく「脂肪を燃焼させる」といいますが、これには2段階のステップがあります。
最初は、体脂肪の中の中性脂肪が分解されて血液中に放出される、いわゆる「体脂肪の分解」。そしてその次は、分解されて血液中に出てきた遊離脂肪酸とグリセロースを筋肉で取り込んでエネルギーとして使う「脂肪の燃焼」です。
体脂肪を減らすには、「分解」と「燃焼」のコンビネーションが必要なのです。
スロートレーニングを行うと、成長ホルモンの効果で、約1時間後には脂肪の分解スピードが上がり、血中の遊離脂肪酸が2~3倍に増加します。つまり、これは脂肪が燃えやすい状態といえます。
そしてこの状態は数時間続くので、そこで意図的に活動量を増やしたり、脂肪燃焼効果の高い有酸素運動を行えば、さらに効果的といえます。
じつはこれを反対の順番で行うと、まったく別のことが起こります。
成長ホルモンは、血中の遊離脂肪酸が上昇すると分泌が抑えられてしまう性質があるので、先に有酸素運動を行うとその後の無酸素運動での成長ホルモンの分泌が抑えられて効果が減少してしまいます。
まったく意味がないとは言えませんが、決して効率的ではないので、組み合わせる場合はやはり順番が肝心です。
スロートレーニングの5つのポイント
①ゆっくり動かす
スロートレーニングを行う際の重要ポイントは、エクササイズ中、筋肉に力をかけ続けること。そうすることで、筋肉中の血液が威厳され、結果、ハードな筋トレと同等の高い効果が得られます。
筋肉の力を抜かないため、通常の筋トレに比べ、一つひとつの動作をゆっくり行います。体を素早く動かすと、自然と勢いがついて、次の瞬間、反動でふっと力が抜けます。
スポーツの動きでしたら、そのほうが良いのですが、トレーニングの場合は逆で、筋肉を追い込む必要があるので、常に筋肉の力を抜かないために動作は「ゆっくり」がポイントです。
②ノンロックで行う
たとえば、通常の腕立て伏せでは、普通ひじを伸ばし切ったところで、動きをいったん止めます。これを「関節をロック(固定)する」といいます。
この状態では、関節で体を支えられるので、筋肉から力が抜けてしまいます。腕立て伏せのひじを伸ばした状態なら何秒でもラクに維持できますよね。スクワットでひざを伸ばし切った状態も同様で、立っているだけならラクなものです。
このように関節をロックして筋肉から力が抜けると、血流を制限できず、筋肉をうまくダマせません。エクササイズ中に筋肉を休ませないためには、関節をロックさせないことが重要です。1分程度の短い時間ですから、動作中はその種目が終わるまで力を抜かないように意識しましょう。
③呼吸を意識する
呼吸と体の動きは深く関係しています。
筋トレでは通常、バーベルなどを持ち上げるときに息を吐き、下ろすときに吸います。しかし息をふっと吐いた瞬間に動作を始めると、どうしてもぐっと力が入って動きに勢いがついてしまいます。その瞬間、反動でふっと抜けてしまうのです。
そこでスロートレーニングでは、ゆっくりと一定速度を保つコツとして、動作と呼吸を特殊な方法でシンクロさせて行います。
ふーっと息を吐き始めて1秒後に動作を開始します。呼気と同時に動き始めないことで、反動を使って加速することを抑えているのです。その後、息を吐き続けて、ゆっくり3秒間で上げる動作を、次に息を吸いながらゆっくり3秒間で下げる動作を行うのです。つまり、呼吸を1回7秒間の上下動作で行うのです。
しかし、あまりに呼吸にこだわりすぎて意識が動作に向かないのも困りますので、難しく考える必要はありません。自然呼吸で行いましょう。
④5~10回を目安に無理のない範囲で行う
基礎代謝を上げる筋肉を発達させるには、5~10回繰り返せるくらいの負荷が適切とされています。
スロートレーニングもその回数を目安にできるだけ行います。ただし、スロートレーニングは回数や強度にこだわることより、安定した正しいフォームで行うことのほうが大事です。
たとえば、スクワットがいきなり難なく10回できてしまうようでしたら、正確なフォームでないことを疑う必要があるでしょう。動きが速すぎたり、立ち上がりきって毎回休んでいたりと、どこかごまかしている部分があるかもしれません。
「腹筋100回は毎日欠かさずやっています」という方でも、正しい腹筋をスロートレーニングで行えば、ほんの10回程度で悲鳴をあげるほど腹筋に効かせることができます。
⑤エクササイズ後はストレッチを行う
エクササイズが1種目終了するごとに、反動をつけて軽めのダイナミックストレッチを行うようにしましょう。(腹筋だけは、腰を痛めてしまう可能性がありますので、慎重にゆっくりと)
ノンロックスロー法では、動作中血液循環を制限するので、直後にリズミカルなストレッチをすることで、血液循環を良好にさせる必要があります。そうすることでエクササイズ後の疲労が残りにくくなります。
まとめ
スロートレーニングは、比較的小さな負荷でも大きな効果を発揮するため、特別な器具を必要とせず自重を活用して手軽に行えます。このトレーニング方法では、腱や関節にかかる負担が少なく、整形外科的な怪我のリスクも低減されるため、安全性が高いという利点があります。
また、スロートレーニングは成長ホルモンの分泌を促進し、脂肪分解や筋肉の発達を助け、基礎代謝を高めることで、痩せやすく太りにくい体作りにも効果的です。特に、体力に不安のある方や怪我のリスクが気になる中高齢者にとって、安全かつ効果的なレジスタンス運動として非常に有用です。