自分の姿勢が正しいのか間違っているのかを判断することはなかなかできません。なぜなら「良い姿勢について真剣に学ぶ機会がなく知識が少ない」からです。悪い姿勢になっていると感じていても、なにが悪いのかがわかっていなければ修正することはできません。
とはいえ人間本来の正しい姿勢を身につけるのに、深い知識など必要はなく、理論は非常に簡単で誰にでも理解することができます。それが日常生活で無意識に身につくまでは少々時間はかかりますが、普段のちょっとした意識が高まれば少しずつ身についていきます。
今回は、悪い姿勢になることでの悪影響を知ったうえで、良い姿勢を身につけるための知識を述べていきます。
悪い姿勢による体への悪影響
姿勢が悪くなる理由を多くの方は、「筋力低下」と思っています。もちろん極端に筋力が低下している場合もありますので、決して間違いではありません。
しかし反対を言えば、いくら筋肉量が多くても姿勢は崩れます。そのため、姿勢が崩れる理由としては筋力低下もありますが、根本的な理由は「重心の位置の乱れ」になります。
座る、立つ等の姿勢を保つためには重心の位置を意識する必要があります。重心の位置が乱れることで姿勢が崩れます。悪い姿勢になることで、肉体的には関節や筋肉に負担をかけ、また精神的にも無理な負担をかけることになります。
それぞれご説明していきます。
悪い姿勢による肉体的負担
悪い姿勢になると「小さくて弱い関節や筋肉」に負担がかかります。上半身では首や肩、腰周辺の関節や筋肉です。下半身は膝や足首周辺の筋肉や関節になります。
そして一番の問題は、「関節や筋肉の連動が途切れること」です。要は小さくて弱い関節や筋肉一点に負荷がかかることになりますので、その負荷に耐えることができず、関節や筋肉を痛めることになります。
近年では、スマートフォンの普及により姿勢が崩れている方が増えたと感じます。座っている時、立っている時、また歩きながらスマートフォンを使用している方が多く見受けられますが、ほとんど目線が下を向き、うつむく姿勢になっています。これにより首、肩、腰に多大な負担がかかります。
また、このような姿勢を繰り返し行っていると癖となり、関節や筋肉が固まり、良い姿勢に修正することが困難になります。だからと言ってスマートフォンの使用を控えるのではなく、使用している時にできれば良い姿勢でいてほしいのです。
良い姿勢を身につけるとおわかりになると思いますが、大きな筋肉を使用するため、正直疲れます。しかし、関節や筋肉にかかる負担は軽いので「楽」なのです。悪い姿勢になると小さな関節や筋肉を使用するので、あまり疲れません。しかし関節や筋肉にかかる負担が大きいので「苦」になります。
悪い姿勢による精神的負担
猫背で背中が丸まり、うつむく姿勢を想像してみてください。気を病んで落ち込んでいるように見えませんか? 悪い姿勢は、精神状態に影響を与えることがあります。
また、悪い姿勢により、首や肩、腰、膝などの関節に負担がかかり痛みがでたり、猫背になることで胸郭が狭まり、肺や気管支、心臓、肝臓、膀胱や子宮などの下腹部にも負担をかけるので、内臓の痛みにもつながります。痛みにより、QOL(生活の質)が低下することで、気持ちもどんどん後ろ向きになってしまいます。
良い姿勢とは?
悪い姿勢による悪影響はわかったものの、では良い姿勢とは、はたしてどのような状態を指すのかをご説明していきます。
多くの場合、良い姿勢を見える部分のみで判断してしまいます。要は、たとえば立ち姿勢で言うと、「耳、肩、腰、膝、くるぶしが一直線上に揃う状態」と一般的に説明をします。これらが揃うとまさしく良い姿勢になるのですが、これは「結果」にすぎません。
良い姿勢を意識する際には「本質」を理解しなければいけません。本質を理解して、意識することで自然と良い姿勢になるのです。その本質はなにかというと「重心の位置」になります。
重心の位置
座っている時、立っている時の重心がどの位置にあるかを意識したことはありますか?
ほとんどの方は意識したことがないかと思います。
日常生活動作やスポーツ動作を行ううえで、重心の位置は非常に重要なポイントになります。人間は二足歩行のため、足の裏が広くなっています。そのため、20数㎝内で重心の位置が人によって異なる場合が多く見受けられます。これにより姿勢が良い人と悪い人のどちらも存在します。
ちなみに四足歩行の動物の場合、足の裏の接地面が「点」になるため、重心の位置など意識せずともすべて同じような姿勢になり、違いは基本的にあり得ません。しかし人間は重心の位置を意識することが必要不可欠となります。
座る、立つ時に重心の位置
座る時の重心の位置は「坐骨」になります。
坐骨は股関節の一部で左右にあり、硬い椅子などに座り骨盤を垂直に立て、左右にお尻を揺らす際に座面に当たる部分になります。
常に坐骨が座面に当たっている状態で椅子に座ることで良い姿勢を維持することができます。坐骨が座面に当たっていない状態は、骨盤前傾(反り腰)しているか骨盤後傾(猫背)の状態となり、筋肉や関節に余計な負担をかけてしまいます。
そして重心の位置を坐骨にするためには、一番上にある頭の位置も非常に重要となります。坐骨は「背骨の始まり」となり、頭が「背骨の終わり」になるからです。
そのため頭の位置としては、顎を上げ背骨の上に乗せる位置が正しい位置となります。よく顎を引くと言われますが、頭が前に垂れ下がる状態になり、背骨からズレ、ストレートネックとなり、首や肩に負担をかけます。
立つ時の重心の位置は「くるぶしの真下」になります。
足の裏にかかる体重の割合としては、くるぶしの真下7割、母子球2割、少指球1割となります。足の裏全体に体重はかかってはいますが、大半をくるぶしの真下に体重をかけるイメージです。
くるぶしは足の裏の中でも「後ろ側」にあるため、初めのうちは、後ろに倒れそうになる感覚があるかと思います。重心をくるぶしの真下にかけると骨盤が垂直に立ち、くるぶしの真上に坐骨がきます。そして座り方と同様坐骨の上に頭がきます。これが正しい立ち方となります。
今回は基本的な座り方、立ち方をお伝えいたしました。どちらの姿勢も少々上を見る形になるので、よくデスクワーカーの方には「上を向いてたら、デスクのパソコンが見れません」とご質問をいただきます。
その際の体の使い方にもコツがあります。文章でご説明するよりも動画でご確認していただく方が理解がしやすいかと思いますので、気になる方は参考動画よりご覧ください。
良い姿勢でも体に負担はかかる
いくら良い姿勢で過ごしていても、体にはもちろん負担はかかるものです。われわれ人間も「動物」ですので、やはり動かなくてはいけないのです。
そのため普段から「こまめに姿勢を変える」意識を持ちましょう。一日の中で座っている時間が長い、また立っている時間が長いという場合は、30分に一回は姿勢を変えましょう。立ち上がってスクワットをしてみたり、その場で足踏みをしたり、時間があれば散歩をしてみても良いと思います。
また姿勢に関しては、完璧を求めすぎてしまう方が多い印象を受けます。
良い姿勢が100点だとすると、ずっと100点を取り続けることは非常に困難なことです。少し姿勢を崩して70点くらいにする時があっても良いと思います。そしてまた100点を取るといったように心に余裕を持たせることが大切です。完璧を求めすぎないということも頭の片隅に入れておくと良いでしょう。
まとめ
われわれは、ある日突然椅子に座ったり、立ったり、歩いたり、走ったりします。日々当たり前になってしまっていますが、われわれ人間はそれらの動作を一度見直す必要があるのではないかと考えています。しっかりとした理論を学び、理解している方とそうでない方では、雲泥の差がつきます。
今や人生100年と言われる時代ですので、なるべく体にかかる負担を軽減し、関節や筋肉を大切に扱ってあげてください。ほんの少しの意識で良いので、普段の生活のなかでご自分の体と向き合ってみましょう。いきなり完璧を目指すのではなく、少しずつ取り組んでみましょう。